2019年4月30日火曜日

リバ剣 息子と稽古③ 一足一刀

「一足一刀」で打つために


さかのぼってやり直す


 前回の投稿で、2010(平成22)年8月当時の息子の剣道の現状について書きました。
 小1から剣道を始めた息子は当時小4。正しい剣道を伝えるためには、“正しくない”ところまでさかのぼってやり直すしかありません。息子との稽古はそこから始めました。

 まずは、「提げ刀」の姿勢から。次に、立礼の仕方。帯刀とは何か。そして蹲踞の仕方。初心者に教えることを一つ一つやり直す。私の真剣さに気づいたのか、息子も真剣にやってました。普段は友達みたいな“お父さん”も「剣道」となると別人だと思ったでしょうね。
 まあ、このへんまではすぐに矯正可能ですよね。息子も難なくできるようになった。問題は次、足さばき。

「一足一刀」で打てる“足さばき”


 剣道の入門書や稽古法の解説書など、“足さばき”についてはそれぞれの方法が書かれています。
 剣道の足さばきは“すり足”です。そこから、“送り足”と“歩み足”に大別されます。どちらも剣道に必要な足さばきです。
 私が子供の頃(昭和40年代)は、二足一刀など歩み足での刀法も習いましたが、最近は古流の道場にでも行かない限り、歩み足での刀法を習うことはなくなってしまいました。
 ですから、現在出版されている剣道の入門書などからは、歩み足に関する記述はほぼ、なくなってしまっています。(歩み足の刀法については、こちら
 
 そういった経緯は別にして、現代の剣道の入門書などには、最も大事な送り足の「目的」が書かれていない。なぜ、そういう“足さばき”をしなければならないのか。

 “送り足”を身に付ける目的は、攻め込みそして「一足一刀」で打つために、です。
 
 息子の場合、「一足一刀」で打つという目的のために、足さばきで直さなければならない点は三つ。

  1.  一つは撞木足(しゅもくあし)。構えた時に、左足のつま先が大きく外側を向いていました。「かかとを外側に持っていくような気持で」と指導したら、すぐに直りました。でも、しばらくすれば元に戻ります。これは、腰の遣い方がなってないから。
  2.  二つ目はその腰の遣い方。腰を左に開いて構えている。いわゆる「腰が入っていない」という状態。右足前、左足後ろにして立てば、腰は自然にやや左に開きます。これを「腰が入っている」状態にするためには、背骨を軸にして骨盤をわずかに右に回転させた状態で止める。すると腰の“開き”が矯正され身体を相手に正対させることができます。「腰を入れた」ことによって、撞木足に戻らなくなりました。
  3.  三つ目は、いざ打つとなると左足を継いでから右足を踏み出して打っているということ。ひどい時は、右足を追い越して左足を一旦前に出してから、右足を踏み出している。「二足一刀」になっちゃってるんです。構えた状態から左足を継がずに、そのまま右足を前に出して打つ。できない人にとっては簡単なことではないんですね、これが。息子は、この癖が完全に直るまでに、数年かかりました。

 この三つの点は、大人でもできていない人が多いですね。安易な稽古をしていると陥りやすいところです。私も肝に銘じています。 

「一足一刀」で打てる“構え”


 「そんな構えで打てるのか」

 息子と初めて剣を交えた時に、私が言った言葉です。
 “構え”は構えるためのものではなく、打つ(斬る)ためのものです。ここでも目的をはっきりさせなければなりません。

 “正しい構え”が形(かたち)だけのものであっては、意味がありません。身体の運用が正しくできている結果として、正しく構えられているのでなければなりません。
 一見、正しく構えているようでも、いざ打ってみると腰が開いてしまうっていう人よく見ますよね。身体の運用法が違っちゃってるんですね。腰の遣い方が違うんです。

 明治維新以前の日本人が「ナンバ歩き」という歩き方(または走り方)をしていたころは特段気にすることはなかったでしょう。(ナンバ歩きについては、こちら
 維新後、西洋化が進み、服装や歩き方も変化した。すると、剣道や、能、狂言、茶道などに見られる日本古来の歩き方をするには、正しい知識が必要になってしまった。
 日本古来の武芸は、当時の日本人が“常の歩き方”としていた「ナンバ歩き」を土台にして出来上がっているといっても過言ではありません。

 私が子供の頃は、こういったことを「腰をいれろ!」という表現で教えられました。腰が開いていれば、竹刀で腰のあたりを思いっきり叩かれる。体で覚えさせられたわけです。

 現在では「腰を入れろ」と言っている指導者はあまり見かけないですよね。ですから、腰が開いている子供を見ても放置しっぱなし。大人たちが、「腰を入れる」とはどういうことなのかわからないのです。たいていそういう場合は、その指導者自身が腰が開いていますよね。

 背骨を軸にして骨盤を右に回転させるようにして左足で蹴り、右足を前へ出す。「腰を入れる」の正体です。
 このような腰の遣い方をすれば、打った後の左足の引付けは自然とできます。引付けようと思わなくても引付けられるのです。そういう身体の運用法なのです。

 このように打てるようになれば、自然と腰の入った正しい構えになります。
 

「一つ拍子」で打つ


 正しい足さばきができ、腰を入れて打つことができるようになれば、「一つ拍子」で打てるようにします。教えなくても最初から「一つ拍子」で打つ子供もいます。息子は完全な「二つ拍子」。しかも、「これの何がいけないんだ」って言ってました。違いがわからないんですね。笑

 構えた状態からいざ打とうとすると、竹刀を振りかぶるのと同時に左足を継ぐ、そこで一度拍子をとりますから、竹刀の動きは頭上で一瞬止まります。次に竹刀を振り下ろしながら、右足を前へ出して打ちます。大きく打った場合の「二つ拍子」です。
 小さく打っても同じ。打つ前に左足が動きます。継いだり、構え直したりするのです。ここで拍子をとってますから、小さく打っても「二つ拍子」になっているのです。

 これは、大人でも直せない人はたくさんいます。「二つ拍子」である自覚がないんですね。
 しかし、子供の場合は必ず直ります。素直ですから自覚がなくても正しく伝えれば、できるようになります。

 私の息子ですか?
 かなりてこずりましたけどね。あることをきっかけに、“開眼”しました。笑
 次回に書きます。


注目の投稿です

宮本武蔵『独行道』「我事に於て後悔せず」を考察する

後悔などしないという意味ではない 布袋観闘鶏図 宮本武蔵 後悔と反省  行なったことに対して後から悔んだり、言動を振り返って考えを改めようと思うこと。凡人の私には、毎日の習慣のように染み付いてしまっています。考えてみれば、この「習慣」は物心がついた頃から今までずっと繰り返してきた...

人気の投稿です