切っ先返しで打つ
黒いビニールテープは竹刀の重心位置を示す |
「切っ先返し」とは
切っ先返し(きっさきがえし)という言葉。聞いたことある方もいらっしゃると思います。時代劇や剣豪小説などで見聞きしたことがあるのではないでしょうか。
しかし大変残念なことに、ほとんどの場合誤解されて伝わっているんです、「切っ先返し」という刀法が。
時代劇や剣豪小説に登場する剣術遣いが「切っ先返し」と称して繰り出す技は、たいていの場合、手首をひねりながら切っ先を大きく右から左に回したり、左から右に回したりして斬ろうとする。あるいは、袈裟斬りに振り下ろした瞬間、刀の刃の向きを変えて斬り上げる、といった動作をする。
これらはいずれも「切っ先返し」ではありません。
第一の構(かまえ)、中段。太刀さきを敵の顔へ付けて、敵に行相(ゆきあ)ふ時、敵太刀打ちかくる時、右へ太刀をはづして乗り、又敵打ちかくる時、きつさきがへしにて打ち、うちおとしたる太刀、其儘(そのまま)置き、又敵の打ちかくる時、下より敵の手はる、是(これ)第一也。
これは、『五輪書』の一節で、宮本武蔵が約400年前に制定した「五方ノ形」(ごほうのかた)の一本目を、武蔵自らが解説した文章です。
ここにある「きつさきがへしにて」とは、まさに「切っ先返し」のことです。
"返す"という言葉には、"元に戻す"という意味があります。
では、切っ先を元に戻すとは、どういうことなのでしょうか。
刀(竹刀)の重心を中心に回転させる
切っ先(剣先)を元に戻す。どこに戻すかといえば、構えた位置、中心、打突部位などにです。しかも、戻すのは切っ先(剣先)だけ。
「それってどういうこと?どうやって打つの?」って思うと思います。
振り上げた刀(竹刀)を振り下ろすとき、打突部位に到達する寸前に、柄を握った拳(こぶし)を引き上げるのです。
片手であればその拳です。諸手保持であれば柄頭にちかいほうの拳(通常は左手ですね)を鋭く跳ね上げるようにする。
切っ先は打突部位に向かって振り下ろされていき、柄側は上方に跳ね上がる。
つまり、刀の重心点を中心に、刀が回転する運動に瞬間的に変わるわけです。
これが、「切っ先返し」であり、この方法で打突することを「切っ先返しの打ち」といいます。
これは、片手刀法でも諸手刀法でもできます。
普段、剣道で諸手で稽古していらっしゃる方々も、「切っ先返し」とは知らずにやっている方もいると思います。
実際に、高段者の先生に竹刀で打突されて、「パクン」といい音がしてもまったく痛くない、という経験をしたことがあると思います。鍛錬したしなやかな手首を遣って、打突の瞬間に、竹刀を重心を中心に回転させているのです。
手の内の"冴え"
前回の投稿までの3回にわたって片手刀法の「手の内」の稽古について記述しました。
「手の内」は素振りで稽古することが大事であること。
"正しい"素振りの仕方を知ること。
「太刀の道」をつきとめること。
そして今回の、「切っ先返し」で振ること。
正しい片手素振りの稽古を始めて半年たった頃には、毎日2,000本の素振りをやるようになっていました。右片手1,000本、左片手1,000本です。
内訳は、朝出勤前に左右200本ずつで400本、これが1セット。昼休みに職場で1セット。夜、帰宅してすぐに2セット。就寝前に1セット。これで2,000本です。
これを、やらなければならない数字として、自分に課したわけではありません。
もっとやりたかったけど、これ以上は時間的に無理だったということです。(この4年後に急性リンパ性白血病と診断されるまで、毎日続けました。)
これを実践していって身に付いたのは、手の内の"冴え"です。
以前は、諸手で打ってくる一刀者に打ち負けることを恐れて、虚(きょ)をついて打っていったり、小刀でお相手の竹刀を押さえ込んで大刀で打つことばかり考えていました。
しかし、手の内の冴えを身に付けてからは、お相手の動作を起こそうとする刹那を、仕留めることができるようになった。
たとえ「相面」(あいめん)になっても絶対に打ち負けないという自信が持てたのです。
自分の剣道が驚くほど変わりました。
「キミは手の内が不十分だ」
OOT範士のこの言葉がきっかけで、すべて始まったことです。(その時の様子はこちら)
剣道をやっていく上で、かけがえのない"財産"を手に入れることができました。
OOT先生には、感謝しても感謝しきれません。
追記
OOT先生は、元警視庁剣道主席師範で剣道八段範士。
実は私と同姓で、住まいもご近所。しかし姻戚関係はありません。笑